2017年8月30日水曜日

大日ヶ岳 前谷川











大日ヶ岳は中部地域にとって重要な山頂だと勝手に思っている。それは、この山が庄川と長良川という2つの重要な河川の分水嶺となっているからである(それと九頭竜川も)。庄川は日本海へ長良川は太平洋へ注いでおり、どちらも流域は広くその流域住民へ恵みと災厄をもたらし文化の形成に深く関わっている。つまり、大日ヶ岳は中部地方における南北文化境界の可能性が疑われるのである。そのような河川の源となれば霊験あらたかなる場所に違いない。また、大日ヶ岳の山の形も魅力的だ。中部地方の南北を分かつ分水嶺は数あれど、この大日ヶ岳ほど均整のとれた美しい山体をもってたおやかに水を分ける山は他に無いのではないか。極めつけは大日如来から拝借した名称である。山頂の適度な標高と眺めのよさからハイカーには大変な人気となっている。

前谷川は大日ヶ岳南面を流れ、この山では最も深く侵食されている谷である。その遡行内容も変化に富んでいて大変面白い。入渓直後に展開する流紋岩質でスケールの大きいナメはこの谷への期待感を一気に高める。それを抜けると堆積物が取り込まれた安山岩質となる。登りそのものは歩きだが、側壁支沢の滝や特徴的な侵食が楽しいセクションだ。1046mの二俣を右に入り山頂へ向う沢へ入ると、純粋な溶岩地帯となる。それに伴い滝が幾つも現われ始め直登したり巻いたりする。岩は大きく剥がれる脆さがあるので注意したい。水量が乏しくなるのは比較的早く、1300m位から藪っぽくなる。最後は大日ヶ岳の西南のコルに出たがそれ程酷い笹薮漕ぎにはならなかった。たどり着いた山頂はアットホームな良い感じの賑わい具合である。ここが水の南北泣き別れの地。不意に感極まり涙ぐむ。不審者がこの和やかな周囲のムードをぶち壊しても申し訳ないのでさっさと山頂を去ることにする。帰りの下山路ではハクサンシャジン、タカネマツムシソウ、クガイソウなど遅めの高山植物を楽しんだ。

谷はもちろん素晴らしいのだが、山がいい。次は庄川水系側から登りこの山頂を楽しみたいものだ。

<アプローチ>
石徹白へ向う途中にある魚返橋が前谷川の入渓点として丁度よい。下山は東縦走路と呼ばれる前谷川付近へ降りる登山道を利用すれば早いはず。筆者はこの登山道の存在を知らずに、ウィングヒルズから県道を40分程度歩いて戻った。下山後に東縦走路の存在を教えてくれた人によると、所々藪っぽい道だそう。高山まで国道41号線と360号線を利用して、高山から高速を利用する折衷案であれば、そこそこ安くて早い。2時間半くらいだと思う。

<装備>
沢慣れした人同士であれば確保の必要性を感じないかもしれない。ピトンとパッシブプロテクションを適当に。登山道に出る直前でハイカーに熊と間違われないように熊鈴は持っていきたい。熊除けではなく、俺熊じゃないよアピールの為である。遡行時黒い服を着ていた筆者は石を投げつけられそうになった。

<快適登攀可能季節>
7月~10月。南面で森も良い感じなのでシーズンを通して楽しめそう。

<温泉>
満天の湯:ウィングヒルズに併設している温泉施設。一番近いが入湯料が800円とお高め。
湯の平温泉:こちらは高鷲町の中にある綺麗な温泉施設。600円也。

<博物館など>
日本土鈴館:土鈴(どれい)とは土で出来た鈴である。優しい音色と暖かい感触が売りのアイテムだが、有っても無くても生活に支障は無い。そんな代物をとことん集めた白鳥にある博物館である。全国各地から集めた量は圧倒的だ。土鈴だけではなく河童や観光提灯、郷土玩具を展示してるが時おりエロもコソっと。その辺りとってもチャーミング。

石徹白の大杉:立ち枯れながら、なお屹立する姿に涙腺が緩む。登山の終わりに必ず訪れてほしい。



2017年8月24日木曜日

布施川 小杉谷










布施川は僧ヶ岳と烏帽子山を源とし、日本海へ注ぐ直前で片貝川へ合流する富山では比較的小さな河川である。評判のよい谷があまた有るにも拘らず、敢えてこの流域で沢登りをする篤志家は稀で、さらにその支流の小杉谷に入渓するなんて人間は偏執狂と断言できる。しかし登ってみれば、あら意外。本流の麗しいゴルジュ帯と小杉谷へ入ってからの小滝群は面白く遡行内容全体も纏まっている。川床の石が酸化鉄由来と思しき赤玉模様となっていてかわいいのも嬉しい。

鼻の滝から入渓すると俄かにゴルジュ帯になる。流れが激しく見えるが、水深は浅く問題ない。途中、巨岩の上に屹立する桂の木が印象的だ。滝と組み合わさった不思議な堰堤を越えると再びゴルジュ帯に入る。ここもホールド豊富でへつりを楽しめる。ゴルジュの先にある二条滝は渇水時なら登れそうだ。その上は川原になっているので巻いた場合も直ぐに下降してOKである。小杉谷へ入ると急峻になり、小滝が連続するようになる。沢慣れしてない人が居る場合はお助けを使用すると安心だ。地形図では滝記号が2箇所記載されているが、小滝だらけだったので特定できなかった。林道が交差する手前から藪っぽくなり沢登りとして楽しい部分は終了する。それより上部はガレたゴーロとなっていた。
忙しい人がちょっと楽しんだり、初心者のトレーニングには丁度良い行程である。本流を詰めて僧ヶ岳へ登るのも魅力的だ。布施川水系は堰堤が多いのが珠に傷だが遡行は十分楽しめると思う。

<アプローチ>
鼻の滝を見物する駐車場に駐車。展望台から適当に藪を漕いで入渓。地図上の林道は既に廃道と化しており、藪漕ぎすることになる。同ルート下降が無難。

<装備>
ピトン少々

<快適登攀可能季節>
6月~11月。

<温泉>
宇奈月温泉総湯(湯めどころ):新しくなった館内はモダンな作り。お湯が熱くて長湯できない。
尾の沼体験交流施設 とちの湯:露天風呂の眺めが良いお風呂。閉店は18:00と入浴施設にしては異例の早さなので注意。

<博物館>
下山芸術の森発電所美術館:時おり興味深い展示をやっている。冬季は休館するので注意。
魚津水族館:歴史有る水族館で主に県内に生息する魚を展示。こじんまりとしているが魅力的な水族館。可愛いPOP解説も面白い。
魚津埋没林博物館:でっかい木が沈んでいるだけなのだが、なぜか趣がある。
帰りには生地の道の駅で新鮮な魚を買って帰るのもいい。

2017年8月21日月曜日

川九里沢右俣
















高瀬川流域で最も急峻な谷が川九里沢である。左俣出合いは滝壷の無い大滝となっており異様である。壁に水が流れているような地形だ。一方、右俣は地形図では左俣より傾斜は多少緩くみえる。ところがどっこい、この右俣も十分に険しい谷だ。出だしの驚愕スケールひょんぐり滝と70mの美瀑がこの谷のハイライトである。遡行する場合は大滝登攀を楽しめる可能性はあるだろう。この谷を訪れる篤志家には水線突破の可能性をぜひとも探って頂きたい。筆者らはこの谷を下降で訪れたが、緊張の続く展開に酔いしれた。

花崗岩の作り出すゴルジュは幅があって楽しい。五十沢本流のような芸術的な造形もあれば川九里沢のような地獄的造形もある。地獄造形の場合、土砂崩れが発生しやすいので遡行内容が変化する。これが新鮮さと冒険性を遡行者にもたらすのだ。美しいだけが自然じゃない、荒々しさもまた深い味わいがあってよろしい。

<アプローチ>
 七倉ダムに駐車し高瀬ダムを経て湯俣方面へ。アプローチの歩きが長い。遡行する場合、快適で安全な幕場に恵まれないが、1798m以上であれば整地して張れる場所も有る。ちなみに、遡行・下降どちらの場合でも1798m二俣は左に入った方が滝が続き楽しいはず。何処を下降するかは非常に悩ましい。水俣川、高瀬川方面に下降可能な沢はどれも急峻で楽には降りられない。これも下降を楽しむ気概で臨めばまた一興である。コジ沢が一番近くて無難な気がする。

<装備>
カム一式、ピトン各種、ナッツ、クライミングシューズ、鐙。下降しただけなので良く分からないけど。一部ぬめるスラブ滝も有るのでフェルト底が無難か。

<快適登攀可能季節>
7月~10月上旬 下部の核心部地帯は意外に水量が多い。水線突破を狙うならば秋が勝負か。標高が高いので寒さ対策も忘れずに。

<博物館など>
大町山岳博物館:資料館が素晴らしい。剥製の展示も豊富で躍動感、物語性があり見入ってしまう。ボルダリング壁も一回100円で一日利用可。

塩の道ちょうじや:庄屋であった平林家を展示。千国街道から運ぶ塩は瀬戸内産だったそうな。北前船で糸魚川まで運ばれ、そこから大町まで運んだとか。にがり甕の知恵に感動。

<温泉>
上原の湯:400円で石鹸&シャンプーが付いている温泉。
薬師の湯:温泉博物館と酒の博物館が近くにある。600円。
みみずくの湯:白馬にある日本有数の強アルカリ泉。入って損は無し。

<グルメ>
昭和軒:大町駅近くにあるカツ丼の店。大盛りはプラス100円で凄い量が食べられる。

2017年8月19日土曜日

水俣川 中東沢








高瀬川流域における沢登りの記録は殆ど高瀬ダム以北であり、それより上流の渓谷は源流釣り師とクライマーの世界となっている。それゆえ、各支沢やその側壁に展開する岩壁は多くの謎を秘めているといえる。中東沢のゴルジュ帯は見応えが有る景観だ。谷は全体は明るいものの手強い連瀑帯となっており、どの滝も快適には登らせてもらえない。岩自体は赤い花崗岩で硬くしっかりしている。思い切ってスラブ滝を直登するにせよ、巻くにせよ嗅覚が問われる。ただ、ゴルジュ帯は短く側壁の高さはそれほどではないので、進退窮まることは少ないと思う。2013m二俣以降は為衛門吊岩へ抜けたが、それより上部は難場はなく稜線へ抜けた。切通岩方面へ抜ければ更に滝が続くだろう。

なお、1700mから南へ派生する支流の上部は山体崩壊が進んでおり、水俣川出合いから水が濁りが激しい。下部は土砂で荒れている上、谷のスケールに対して水量が異常に少ないので土砂ダムの形成も疑われる。荒天時は注意した方が良さそうだ。




ここまでの崩壊地帯をお目にかかれることが稀なので、足を踏み入れて観察してみたい場所である。

<アプローチ>
 七倉ダムに駐車し高瀬ダムを経て湯俣方面へ。アプローチの歩きが長い。遡行対象となるりそうなのはゴルジュ帯がある為衛門吊岩方面へ抜ける沢である。良い幕場に恵まれないが、2013mの二俣は辛うじて張れる。何処を下降するかは非常に悩ましい。水俣川、高瀬川方面に下降可能な沢はどれも急峻で楽には降りられない。これも下降を楽しむ気概で臨めばまた一興である。少し遠いが貧乏沢を下降するのは無難な選択といえる。

<装備>
ピトン、カム少々。ラバーソールの方が登り易いかもしれない。

<快適登攀可能季節>
7月~10月上旬 標高が高いので寒さ対策も忘れずに。

<博物館など>
大町山岳博物館:資料館が素晴らしい。剥製の展示も豊富で躍動感、物語性があり見入ってしまう。ボルダリング壁も一回100円で一日利用可。

塩の道ちょうじや:庄屋であった平林家を展示。千国街道から運ぶ塩は瀬戸内産だったそうな。北前船で糸魚川まで運ばれ、そこから大町まで運んだとか。にがり甕の知恵に感動。

<温泉>
上原の湯:400円で石鹸&シャンプーが付いている温泉。
薬師の湯:温泉博物館と酒の博物館が近くにある。600円。
みみずくの湯:白馬にある日本有数の強アルカリ泉。入って損は無し。

<グルメ>
昭和軒:大町駅近くにあるカツ丼の店。大盛りはプラス100円で凄い量が食べられる。

2017年8月16日水曜日

中房川 北中川谷







北アルプスの東南部の地質図と地形図を重ねて見ると、花崗岩地帯に急峻な地形が見られる。該当する河川としては高瀬川、中房川、乳川の三水系であり、各支沢の遡行はどれも面白そうだ。花崗岩の沢は当たり外れの差が大きい。微妙な性質の差によって、ただのガレ沢だったり、情け容赦ないスラブ滝ばかりだったりする。蓋を開けるまで解らない楽しさが魅力ともいえる。

北中川谷は程よいスケールの谷で有りながら、遡行内容はピリ辛だ。谷中は明るく開放的である。そこへ10m以下のスラブ状美瀑が連続するのだから楽しくないわけが無い。どれも直登したり、小さく巻いたりして突破することが可能だ。倒木がやや多いがこれはこれで、薪として有効利用できる。比較的水量が多いタイミングでの遡行であったが、苔ヌメリがかなり有った。花崗岩でも日射が入ればコケが発達するのだろうか。最後の藪漕ぎも高山らしくて面白い。日当たりの悪い谷側斜面を突けば、藪にそれほど苦しむ事は無いだろう。燕岳という素晴らしい山頂も味わえる興味深いルートだ。

<アプローチ>
中房林道の駐車場に駐車。取水堰堤までは道がある。詰めは4パターンに大別される。筆者らは1776mで右、1860mで右に入った。幕営は1950m付近に二人で丁度よい場所があった。

<装備>
花崗岩の谷だが、ヌメリが強くフェルトの方が有効。念のためピトンとパッシブプロテクションを少々。

<快適登攀可能季節>
7月~9月 東面なので早い時期は残雪がありそう。標高が高いので寒さ対策も忘れずに。

<博物館など>
碌山館:荻原碌山やその仲間の作品を展示。鉱夫、デスペア、手(高村光太郎)等の有名作品がある。建物も趣がある。安曇野の山に来たらまず行きたい。
安曇野市豊科近代美術館:宮芳平という作家の作品が良かった。特に詩集「AYUMI」は熱がこもっている。
高橋節郎記念美術館:漆を用いた絵画がとても興味深い。
穂高郷土資料館:穂高町で使用されていた狩猟用具や農耕用具が展示されている。二階には近辺で出土した保存状態の良い縄文土器が数多く展示。面白い。

安曇野には他にも多くの美術館や博物館がある。

<温泉>
有明荘:大きな露天風呂が魅力の立派な温泉旅館である。中房温泉とは源泉が違うようだ。620円也。
穂高健康温泉館:420円で入れるお風呂。露天風呂は無いが石鹸もあり十分なクオリティー。

2017年8月15日火曜日

高原川 煙滝谷









山歩き愛好者は沢登り愛好者の何倍いるのだろう。整備された登山道を利用し気軽に自然に親しめるのがハイキングの魅力だ。一方、「沢登り」というと確保技術やら装備やらが必要で敷居が高く感じてしまうかもしれない。それが原因で渓という環境に親しむ人が多くないのは寂しく思う。そもそも、谷は生活の場であった訳で最も身近な自然であったはず。そんなに身構えず、みな気軽に渓に足を運んでみれば良いのになぁと思うのである。

煙滝谷は遡行なんてイカツイ言葉は必要ない沢である。横に林道が走っているので、嫌になったらすぐに辞めればよい。そのような環境でありながら、ナメや滝と癒し系の渓谷美を見せてくれる。これは言うならば「沢登り」ではなく、「ウォーターハイキング」である。暑い夏、ハイキングの新ジャンルとしてこのような渓で遊ぶのも良いと思う。

<アプローチ>
葛山発電所から下佐谷林道へ入る。林道はそれほど荒れておらず、普通車でも走行可能。ゲート手前に駐車し入渓。適当に綺麗な景色を楽しんで下山すればよい。弓折谷との出合いから二つ目の橋までであれば特に危険なところは無い。下山は林道を使うと早い。

<装備>
沢靴以外特に何も要らない。

<快適登攀可能季節>
5月~10月 高原川にはアブはあんまりいない気がする。

<温泉>
割石温泉